2010年5月11日火曜日

『千の風になって』という歌が私たちに届くまでの話・第5話

●ささやかなお祝いごと
 しかし,その悲しみも時間とともにいやされていき,時折マーガレットの顔にも,笑顔がみえるようになりました。そんなある日のことです。ちょうどその日は,マーガレットがマリーの家にやってきた記念日でした。マリーは,ささやかなお祝いをすることにしました。ごちそうをつくるために,マリーは紙袋に一杯の食料を買ってきました。そして,二人で,お祝いの料理を作り始めました。
 マーガレットが紙袋から,マリーが買ってきた「サクランボ」を取り出した時のことです。突然その「サクランボ」が入っているビンを抱きしめたマーガレットの瞳から涙があふれました。「どうしたの?」というマリーの問いに,「これ,ママの大好物だったの」と答えたマーガレットは,「ごめんさい」という言葉を残して,二階へと駆け上がっていってしまいました。
 どんななぐさめの言葉も,今のマーガレットをはげますことはできないと感じたマリーは,日ごろから《生と死》について自分が感じていたことを,詩につづることにしました。そしてその詩が少しでも励ましになればと願って,マーガレットにプレゼントすることを思いつきました。そこで,紙袋の端っこ切り取って,その紙に,次のような詩を書いたのです。

ザ・ポエムofマリー・E・フライ
                      訳・吉田秀樹

私のお墓の前で泣かないでくだい。
そこに私はいません。
そこに眠ってなんかいません。

私は吹きわたる千の風の中にいます。
私はやさしく舞い落ちる雪の中にいます。
私はやさしく降りそそぐ雨粒の中にいます。
私は熟した穀物が咲き誇る畑の中にいます。

私は朝の静けさの中にいます。
私は円を描いて飛ぶ美しい鳥の優雅な流れの中にいます。
私は夜ふりそそぐ星の光の中にいます。

私は咲き誇る花の中にもいます。
私は静かな部屋の中にもいます。
私はさえずる鳥たちの中にもいます。
私は愛しきものひとつひとつの中にいます。

私のお墓の前で泣かないでくだい。
そこに私はいません。
そこに眠ってなんかいません。

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