研究仲間の西村先生が,日食観測で中国に来られていたことは知っていたので,ひょっとしたらお会いすることがあるかなと思っていたのですが,まさか上海空港のトレイの入り口で,ばったりお会いするとは。西村先生の顔が目の前に見えた瞬間,本当にびっくりしました。これもひとつの日食みたいなものだなあと思いました。
「せっかく中国まで来たのに,残念でしたねえ」の僕の声に,西村先生は興奮気味に「ダイヤモンドリングも金星も見えたよ」は言われました。「えっ!どこでですか」との僕の質問に,「武漢です」との答え。
即座に,西村先生に日食観望記を書いていただき,この文章に掲載することをお願いしました。西村先生は,躊躇なくその願いを聞いて下さいました。そしてさっそく次のような文章を書いて,貴重な写真とともに,送っていただきました。
西村先生,本当にありがとうございます。さすがに仮説実験授業で出会った研究仲間は,ありがたいし,素晴らしいです。掲載の写真は,西村先生が撮影されたものです。写真については,直接西村先生にお尋ねください。
西村寿雄
メールアドレス ja3aeh@cc-net.or.jp
日食観望記
西村寿雄
「うわー」,「うわー」。
どよめきがあちこちからわき起こる。
あたりの景色は,みるみるうちに闇の世界へ。
道路の街灯が一斉に点灯し,あたりは夜の街に豹変。
空を見ると,すばらしいダイヤモンドリング。
どこからともなく拍手。拍手。
やがて,完全な皆既日食に。
頭上に,こうこうと光輝く一点の明るい星。
「金星だ」,と星仲間が叫ぶ。
〈明けの明星〉〈宵の明星〉が,真昼の明星として頭上から光を照らす。
やがて,二度目のダイヤモンドリング。
またまた,拍手がわきおこる。

やがて,少しずつ明かりがもどり始める。
いましがたの感動を互いに語り合う人々の姿が,またどよめきとなる。
かくて,世紀の天体ショーは徐々に幕を閉じていった。
7月22日,午前での中国・武漢(Wohan)での光景です。朝からときどき薄雲が空を横切るものの,ほぼ晴れた状態でした。
私は地学関連のツァーに参加しました。運良く上海から西600kmの武漢が観望場所に選ばれていたのです。責任者に聞くと「上海近くは台風等の影響など受けやすい」という理由で回避されたとのこと,わずかな高確率予測が功を奏した結果になりました。
瞬く間に暗闇になっていく天体現象は,予備知識がなかったら恐れおののくに違いない光景でした。この日食の姿を,ギリシア時代にすでに予測していた人がいたとは,改めてギリシアの科学に感服した一時でもありました。 2009,07,25